「ん?古事記?ストリートで寝泊まりしている人?」
全然違います。ついでにアクセントもちょっと違います。
それでも大半の方が似たようなリアクションをしがち。
そりゃそうです。義務教育でも、ほとんど触れずに終わったから。
なんとももったいない。日本の誕生神話を知らないなんて。

知れば納得。押さえておきたい教養の一つ。
そこで、全く知識ゼロの方にも理解出来るよう、わかりやすくまとめてみました。
若干、駆け足の気味の箇所もありますが、ご了承ください。
そもそも古事記って?
古事記は日本最古の歴史書で全三巻。現存する最も古い写本は真福寺に所蔵。

上巻は神々の神話で構成(この記事で扱うパート)。
中・下巻は初代神武天皇から33代推古天皇までが綴られています。
国生み
アメノミナカヌシノカミ。漢字で書くと天之御中主神。
噛みそうになる神様が天上界・高天ヶ原に現れたのがはじまり。
その後、次々と独り身の神様と、五組の男女の神様が誕生。
その最後のペアがイザナギノカミとイザナミノカミ。

まだ形になっていないドロドロの地面を見た神々は、イザナギとイザナミに国作りを指示。
二人は天界から矛でグルグルかき混ぜ、地盤を固めます。
落ち着いたところで大人の契りを交わし、今度は国を生むことに。

これが国生み。
淡路島を皮切りに本州を含めた八つの国々を出産。
国の原型を作りました。
黄泉の国から逃げ延びて
その後、二人は子作りに励んで、一気に35人の神様をもうけます。
ところが35人目に産んだ火の神のせいで大火傷を負ったイザナミは、そのままご臨終。
「そんなバカな!」
納得できないイザナギは、黄泉の国まで追いかけますが、時すでに遅し。
イザナミは黄泉の国の食べ物を口にしていました。
ひと度、黄泉のモノを食べると、あの世の住人になってしまうのです。
それでもお互い諦めきれず、イザナミは黄泉の国の神様に相談、扉の奥へと引っ込みました。
「決して覗かないで」
一言だけ、言い残して…。
しかし「覗くなよ!絶対覗くなよ!」と言う強力な前フリに、イザナギは耐えられません。
お約束通り扉を開けると、そこにはドロドロに腐乱したスプラッタなイザナミが!
「見~た~な~!」絶対許すまじ!
黄泉の鬼女・黄泉醜女(よもつしこめ)を引き連れ、猛然と追いかけてくるイザナミ。それをなんとか振りきるイザナギ。

こうして、たくさんの子宝に恵まれ、仲睦まじかった二人は、壮大な喧嘩別れを経て、それぞれあの世とこの世に引き返しました。
天の岩屋戸にて
黄泉の国から命からがら生還したイザナギは、まず身体を清め、穢れ(けがれ)を洗い落とします。
禊(みそぎ):川や海の水で穢れを落とすこと
その時の洗顔によって、三柱の神々が生まれました(三貴士)。
イザナギは三人に持ち場を与え、それぞれ治めるよう指示しますが、スサノオは海原を一向に統治しません。
理由を聞くと「母イザナミに会いたい」とのこと。
あきれたイザナギはスサノオを勘当、追い出されたスサノオは姉の太陽神アマテラスを訪ねます。
渋々アマテラスは高天ヶ原での滞在を許しますが、荒ぶるスサノオは傍若無人に振る舞い、死人が出る事態に。
この一件で責任を感じたアマテラスは洞窟(天の岩屋戸)に引きこもり、地上は大パニック!
太陽神の不在で光を失い、世界は闇に覆われたのでした。
そこで事態を憂慮した高天ヶ原の知恵者オモイカネノカミは一計を案じます。
岩屋戸の前にステージを設営、 なんとダンスイベントを開催!

「外は真っ暗なのに、なんでみんな楽しそうなの?」
興味本意で岩屋戸から顔を出したアマテラスは、目の前に光輝く女神を見つけます。
「誰…?」
実は鏡に移った自分だったのですが、そうとは気づかず近寄って来たところを捕まり、岩屋戸から引きずり出されると、ようやく世界に光が戻りました。
スサノオ vs ヤマタノオロチ
高天ヶ原で傍若無人に振る舞ったスサノオは天界から追放、出雲の国へと向いました。
そこで出会ったのが、何やら悲しげな老夫婦。
八人いた娘が毎年一人ずつ大蛇(ヤマタノオロチ)に食べられ、最後に残されたクシナダの不憫さに泣いていたのでした。
スサノオは、老夫婦とクシナダを救うべく大蛇の退治を決意、八つの門を家の回りに作って、それぞれの前に強い酒を置きました。

やがて娘を食べようとやって来たヤマタノオロチは、まんまと酒を飲み干し、酔い潰れてぐでんぐでん。あとはスサノオがめった切りに。
こうしてヤマタノオロチを退治したスサノオはクシナダを妻に迎え、出雲に新居を構えます。
そ 八 妻 出 八
の 重 籠 雲 雲
八 垣 み 八 立
重 つ に 重 つ
垣 く 垣
を る
スサノオは新居での生活がよほど嬉しかったのか、八重にも重ねた垣根の宮殿で一句詠みました。
なんだか可愛らしくてホッコリしますね。
そしてスサノオとクシナダの間にもうけた子供たちの中に(ひ孫のひ孫)、ある重要なキャラクターが潜んでいました。
それが大國主命(オオクニヌシノミコト)。
後に国作りを始める神様です。
オオクニヌシの冒険
因幡の白うざき編
兄弟たちの末っ子だったオオクニヌシは、兄達にこき使われていました。
ヤガミヒメの求婚に行く際も荷物を持たされ、お供として着いていきます。
そしてその途中で出会ったのが、皮膚をはがされた白ウサギ。
「鮫をだまして並ばせ、隠岐の島から背中を渡ってきたら、嘘がばれて皮をはがされました」
そこでオオクニヌシは、真水で身体を洗い、がまの穂の上で寝るよう指示。

たちまち元通りになったウサギはズバッと予言。
「ヤガミヒメと結婚できるのはアナタ!」
実際プロポーズも受けるのです。
面白くないのは兄弟たち。
彼らはオオクニヌシをだまして、真っ赤に燃える岩石を山の上からころがし、実の弟を殺害。
しかし母が神様に祈り、なんとか復活。
それでも気の良いオオクニヌシは、またもや嘘を信じ込み、今度は挟まれた大木の中であの世行き。
それでもしぶとく生き返りますが、さすがに身の危険を感じて避難。
スサノオが統治する根の国へと向かいます。
根の国編
根の国でもオオクニヌシのモテ期は止まりません。
今度はスサノオの娘・スセリビメが一目惚れ。
「めっちゃカッコイイ!」
スセリビメは彼を宮殿に招きいれますが、父・スサノオの反応は今一つ。
それどころか様々な嫌がらせがスタート。
・蛇を敷き詰めた寝床
・ムカデや蜂だらけの寝床
・原っぱに放火して逃げ道をふさぐetc.
それでも次々と試練を乗り越える彼に、スサノオも感服。
最後はエールでお見送り。
「兄たちを成敗して国を治めよ」
生と死を往来し、試練を乗り越えたオオクニヌシの国作りが、いよいよ始まりました。
国譲りと天孫降臨
その後、オオクニヌシは三輪山の神様オオモノヌシと一緒に国作りを完成、その業績は天界の高天ヶ原にまで届きました。
しかし、太陽神アマテラスはご機嫌ななめ。
「元々、地上は父イザナギと母イザナミが作ったもの。オオクニヌシ?後継者は私の血を引くものが適任なはず!」
声高に異議を唱え、 雷と剣の軍神タケミカヅチを派遣。力づくで言うことを聞かせます。

先だって二人の息子が降参したことから、オオクニヌシも白旗を上げました。

この時、国を譲る変わりに立ててもらった宮殿が出雲大社です。
後任は、新たに誕生したニニギノミコト。
高天ヶ原から三種の神器と数人の神様を引き連れ、新しい統治が始まりました。

ニニギノミコトはKY!?
地上に降り立ち、国の統治を進めたニニギノミコトでしたが、女性の対応は誉められたものではありません。
絶世の美女・コノハナノサクヤヒメに一目惚れ、結婚を申し込むも、一緒に送られてきた姉のイワナガヒメは拒否、父の元へと送り返します。

実は、あまりビジュアルに恵まれなかったイワナガヒメですが、側に置くと名前通り「雪が降ろうと雨が降ろうと岩のように揺るがない永遠の命」が手に入るのです。
それを無下に突き返したことで、神の子孫である天皇家の寿命も限られてしまいました。
その後もニニギノミコトのKYは続きます。
今度は妊娠したサクヤヒメに向かって「それ俺の子?」発言。
思いっきりドン引きしたサクヤヒメは身ごもったまま炎の中に身投げ!
「神の子ならどんなことがあっても絶対生まれる!」
母強し!炎の中から、三人の子供を出産したサクヤヒメでしたが、この一件が原因で亡くなりました。
不貞を疑われたサクヤヒメは、その身を挺して潔白を証明したのです。
そしてこの時生まれた三兄弟の長男が「海幸彦(ウミサチヒコ)」、三男が「山幸彦(ヤマサチヒコ)」。
兄弟喧嘩の果てに
ウミサチヒコとヤマサチヒコ。
それぞれが名前通り、海と山の収穫で暮らしていましたが、ある日、弟のヤマサチヒコは釣りに挑戦。
兄から釣り針を借りますが、それを思いっきり紛失。
困ったヤマサチヒコでしたが、シオツチノカミの教えに従い、とりあえず海の宮殿へ。
到着すると、釣り針の件はどこへやら。出会ったトヨタマヒメに一目惚れ。
彼女との日々はよほど楽しかったようで、やがて結婚。
気づけばあっという間に三年もの月日が流れていました。
「いっけね!釣り針忘れていた!」
慌てたヤマサチヒコが、海神ワタツミノカミに相談すると、魚たちを呼び集め、無くした針をなんとか発見。

この時、ワタツミは潮満珠(しおみつたま)と潮干珠(しおふるたま)と言う二つの宝玉も手渡します。
この玉は魔法のアイテムで、潮満珠からは海水が溢れ出し、潮干珠は溢れた海水を干上がせることが出来ます。つまり海水を自由自在にコントロール。
ようやく地上へ戻ったヤマサチヒコでしたが、それ以来、なぜかウミサチヒコの収穫は下がる一方。
二人の喧嘩も絶えませんでした。
遂にウミサチヒコが八つ当たり気味に向かってくると、ヤマサチヒコは二つの宝玉を発動、海水をたらふく浴びせて兄を屈服させます。
主従関係が逆転した後、兄は弟に仕えました。
定番の前フリ
やたらと一目惚れするのもお約束なら、見るなと言っても見てしまうのが古事記。
海神ワタツミノカミの娘トヨタマヒメとヤマサチヒコの結婚は、海の恵みと山の恵みの結びつきを表し、彼らの血筋が統治者としての正統性を得ることでもありました。
話は戻ってヤマサチヒコ。
その後、妻のトヨタマヒメも地上にやって来て産屋で子供を産みますが、出産中は覗かないようお願い。
勿論、覗いてしまうのですが…。
そこでヤマサチヒコは仰天!産屋には巨大なサメが横たわっていました。

正体を見られたトヨタマヒメは恥ずかしさのあまり海へと帰りますが、一人息子のウガヤフキアエズがとにかく心配。
そこで妹のタマヨリヒメを派遣しました。

ウガヤフキアヘズは、漢字で書くと鵜茅草葺不合命。 鵜の羽で作った産屋が完成しないうちに産気づいたことから名づけられました。
やがて乳母になってウガヤフキアエズの面倒を見るタマヨリヒメでしたが、ここでまさかの急展開!育ての親 → 妻へと一気にステップアップ!
二人は結婚して、四人の子宝に恵まれます。
その四番目に生まれた子がイワレビコノミコト。
後に荒ぶる神々を抑えて国を治める、初代・神武天皇の誕生でした。

デュメジルの「三機能体系」
ここまでが神話で構成された古事記上巻のパート。
これ以降は、歴代天皇の政権争いを中心に展開されます。
ヤマトタケルなど、有名なキャラクターも登場しますが、それはまたの機会に。
ところで神話って、どこか似たような展開を見かけません?
フランスの神話学者・デュメジルは、それを「三機能体系」と名付けました。
①第一機能:王様と祭祀(王権、魔術、正義、知恵)
②第二機能:戦士(暴力、武力、激しい大気現象)
③第三機能:生産者(豊穣、多産、愛欲、健康)
これらを日本神話に当てはめると、
神話は、これらの機能がハチャメチャに絡み合い、分厚いストーリーが構成されます。
考えてみれば当たり前のことで、昔はテレビもなければスマホもない。
勿論ネットも開通してないのだから、当時のネタと言えば男女関係や争い事、メインの仕事だった収穫等に限定されるのです。
是非、上記を踏まえて他国の神話にも挑戦してみてください。
思ったより共通点が見付かって面白いですよ。