本棚を晒す【珍本これくしょん vol.34 「無心の心」】

なんと言う清々しい表情でしょう。

 

何かを成し遂げ、自信に満ちあふれています。

 

表紙の人物は著者の山崎照朝(やまざきてるとも)。

  

オールド極真ファンなら、誰もが知る古豪です。

 

そんな彼の生い立ちは壮絶。山梨の山間部に生まれ、父が石工職人として独立するまでの間、過度の極貧生活を味わいました。

私の生まれ育った家は、天井を見上げると空の見えるあばら屋だった。冬ともなれば隙間風の寒さでいつも震えていた。暖をとるために山へ落葉や薪を拾いに行き、近所の人から泥棒呼ばわりされても、じっと耐えるしかなかった。

引用:山崎照朝「無心の心」

 

しかし貧困の中でも、若い男子なら一度は憧れる強さへの欲求を、当然のように求め始めました。

 

きっかけは番長にKOされたことから。高校入学と同時に目を付けられ、金的一発で伸されたのです。それ以来、護身と己を鍛錬するため、道場を通いを決意。その先はもちろん池袋の極真会館

 

抜け忍
抜け忍

何気なく開いたスポーツ誌の広告で決めたよ。これも運命?

 

まだ館長の大山倍達が現役だったので、稽古内容も、現在のスポーツライクな練習とは、かなりかけ離れたものでした。

極真の基本稽古は、三戦立ちで構えた定位置での基本稽古だけで、約一時間行われる。正拳突きから、受け、手刀打ち、蹴りと一技に最低三十本ずつ、順番通りに行っていくのであるが、指導員の先輩によっては、正拳千本とか、前蹴り三十分間とかを混ぜてやらせる。なおかつ一本も気を抜くことは許されなかった。

引用:山崎照朝「無心の心」

求められたものは気合あるのみ。一本でも気を抜くとどうなるか。想像したくありません。

 

抜け忍
抜け忍

組手はさらにエスカレート。顔や金的を殴られ蹴られ、目から火花が飛び散り、足を引きずる毎日。鼻が変形することもあったそうな。

 

他流派を経験した門下生でも一ヶ月で逃げ出す荒行を、山崎照朝さんは黙々とこなし、遂には「二千人に一人」と言われた黒帯を取得。

 

その後はキックボクシングやオープントーナメントでも活躍、華々しい成績を残し、極真空手の歴史に名を残しました。

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「無心の心」のレビュー

値段★★★★★まさかの100円!絶対ありえない!
内容★★★★★稽古内容の記述は、資料的にも価値がありそう。
遭遇率★☆☆☆☆0%。もう二度と出会えません。
スキ度★★★★★武道家・山崎照朝さんの人柄が伝わる素晴らしい一冊。

無心の心とは?

私は「無心」というこの言葉が好きである。技そのものを考えても、試合では知らず知らずのうちに、攻撃や防御の総てのさばきが、無意識のうちに行われている。もし、考えてさばくのであれば、考えている分だけ総ての技に遅れが出る。勝負というものはほんの一瞬のうちに決まるものである。ゆえに「無心」になって闘わねばならない。

引用:山崎照朝「無心の心」

文面からもわかる通り、既に達人の域に達していることは明白。誰もが辿り着ける境地ではありません。

 

雨の日も風の日も練習を積み重ね、膨大な組手パターンを肉体に叩き込み、ようやく無意識下で身体を動かせるのです。

 

大多数の人間が、過酷な荒行で挫折することを考えれば、「無心の心」へ到達したことが、いかに尊いことか。よくわかると思います。

 

ただ、そんな彼にも唯一の黒星が。

「彼と結婚することにしたの…」

彼女から聞きたくない最後の言葉を聞いた私は、目の前が真暗になり、絶望に近い感情を抱いた。

引用:山崎照朝「無心の心」

館長から「女遊びを慎め」と強く言及されていたので、それを頑なに守るあまり、耐えきれなくなった彼女が離れて行ったのです。

 

お相手の男性は、大卒+軽井沢に別荘を持つおぼっちゃま。どう比較されても勝てなかった山崎照朝さんですが、ここで挫けるはずもありません。

 

抜け忍
抜け忍

負けじと文武両道の道へ突入!

  

そして苦学の末、日本大学農獣医学部に合格!

私は悲しさで涙が込み上がると、水で顔を洗い、頭に鉢巻をして「絶対に大学に入ってやる、俺は負けない」と、自分に言い聞かせて机に向かったのである。

引用:山崎照朝「無心の心」

傷ついても傷ついても決して心は折れない。「なにクソ!」とさらに立ち向かう。むしろ傷つく前より強くなってしまうんだから、最早リアルサイヤ人。

 

ちなみに顔も男前。

今でも確実にモテそうですが、恋愛は最後まで奥手でした。

 

その点も含めて、好感度しかありません。なんとも爽やかな達人なのです。